主日の福音 1993,09,05

年間第二十三主日(MT 18:15-20)

救い

共同体として救う神の計画

 

今日の福音でイエス様は、「共同体の救い」についても心を配るようにと教えておられます。ちょっと聞き慣れないかも知れませんが、少しずつ考えてみましょう。

 

神様が私たちを思ってくださる気持ちは計り知れなくて、迷っている人、罪にうちひしがれている人であっても、一人でも滅びることを望んでおられません。今日の福音の直前に、次のように書かれています。「これらの小さな者が一人でも滅びることは、あなたがたの天の父の御心ではない」(MT 18:14)。

 

父の御心がこのようなものでしたら、私たちは一人一人、救いを勝ち得るために、毎日の生活を神に喜ばれるものに整えていく必要があります。ところで、具体的にどんなふうに整えていったら良いのでしょうか。

 

ここで、「共同体の救い」ということが出てきます。私たちは一人一人違った生き方をしていますが、それぞれが誰とも無関係に生きているわけではありません。むしろ実際はその反対で、人との関わりの中で私の生活が成り立ち、出会いの中で私の一日が始まり、終わっていくものです。

 

ですから、救いをかち取るという私たちの目標も、私一人で計画を立てることは、ほとんど不可能に近く、実際には私が出会う多くの人、私と一緒に暮らしている人々との関わりの中で実行されるものです。「私」が救われるためには「私」のことだけ考えても実現されず、「いっしょに暮らしている人」「私と関わりのある人」の救いを考える中で初めて、「私」の救いは現実のものとなるわけです。

 

そういう訳で、私たちは、「私の救い」を「共同体の救い」の中に織り込んでかち取っていく知恵を学ばなければなりません。本当は、これが一番の早道なのです。

 

いくつかの例を考えてみると、なるほどそうだと思われるかも知れません。たとえば、罪の赦し。私たちは自分の罪が赦されるために、回りの人の罪の赦しを願う知恵を、神様からちゃんといただいています。主の祈りの中で、こう祈っています。「我らが人にゆるすごとく、我らの罪をゆるしたまえ」。人の罪を赦しますから、私の罪も赦してください。この通りに実行すると、確かに私の罪は赦されると思います。いっしょに神の赦しにあずかろう、ともにその喜びを分かち合おうという心構えがあるからです。

 

「全能の神と、兄弟の皆さんに告白します」とも言います。私は、神に罪を言い表すと同時に、兄弟の皆さんにも赦しを願わなければならない者です。典礼聖歌の作曲で有名なある信者さんは、「兄弟の皆さんに」というところでは、近くに座った人の方をわざわざ向いて、それから「兄弟の皆さんに告白します」と仰るのだそうです。

 

福音でも、罪から立ち直るためにあなたが働きかけなさい、それでも足りなければ、あなたが親しくしている人といっしょに働きなさいと仰っています。改心の恵みをえるために、一人でそれを成し遂げるのではなく、二人か三人、常に共同体としてそれをいただきなさいと勧めています。同じ目標に向かって、共同体が一つになって働くとき、一人一人の時よりも何倍も効果をあげることが可能なわけです。

 

私自身を振り返ってみても、今の私があるのは、やはりいっしょに学び、いっしょに苦労した友がいたからだとつくづく思います。「私は誰の世話にもなってない、自分一人でここまできたんだ」と、横柄な態度を取ることもできるでしょうが、そのときはおそらく多くの人がその一言のために犠牲になっているわけです。ですからいっしょに学んだ同級生のことは、たとえ志し半ばで去った人であっても、今でも大切な人となっています。

 

奇妙な話ですが、私は中学生の時に、同級生の一人の神学生と「いっしょに神学校をやめようか」と約束したことがあります。それがどこでどうなったのか、私はそのままのこり、彼は今、結婚し、歯医者の院長となっています。当時のことを話したりすると、「あの時いっしょにやめると言ったんだがなぁ」と言って、私はさんざん冷やかされます。彼は今でも、いっしょに生活した神学校のことを、いい思い出として保っているわけです。彼とは今でもどこかで、「おんなじ神学生だったんだ」という気持ちで付き合っています。

 

私たちも、「共同体として救われる」という感覚を改めて呼び起こしましょう。「私」の救いのために、「私」一人のための努力では不十分であること、むしろ「共同体として」いっしょに救われるのが早道だということを、体験で身につけましょう。一人が弱れば一人が手を貸し、一人が祈るときいっしょに祈る、そのようにして、神がそこにとどまってくださる生活、救いが訪れているという姿を、今のうちから積み上げていくよう努力いたしましょう。そのための恵みを、ミサの中で祈って参りましょう。