主日の福音2000,05,2
復活節第五主日(Jn 15:1-8)
カール・ルイスとブドウの木

四月から、テレビの放送がずいぶんと変わってきましたが、その中で、いいなあと思ってみているNHKの夜の新番組あります。「プロジェクトX」という番組ですが、ここでこの前の火曜日に、スポーツ選手のカール・ルイス選手を取り上げていました。彼は、短距離選手としては終わりに近づいている30歳のときに世界記録を出したんですが、その秘密を興味深いドラマにしていました。

カール・ルイスは、誰もが知っている有名な陸上選手ですが、若いときは、誰も彼の記録を超える選手はいませんでした。けれども、20代も終わりに近づいたとき、カナダのベン・ジョンソンという選手が現れて、ローマでの世界選手権でカール・ルイスの記録が破られ、とうとうソウルのオリンピックでは、いっしょに走って追い抜かれてしまいました。

カール・ルイスはそのときのショックは生涯消えないだろうと思います。100bの短い距離の中で追い抜かれたということは、たまたま調子が悪かったとか、スタートがうまくいかなかったとか、そんな小さなことが理由ではなくて、選手は、「完全に負けた」「あいつのほうが、自分よりも力が上だ」と感じるのだそうです。だから、本当にショックだったと思います。

もちろん、あとの話を知っていると思いますが、ベン・ジョンソンは薬物検査に引っかかり、金メダルを取り上げられて、二位のカール・ルイスが金メダルを受け取りました。けれども、私たちでも感じると思いますが、金メダルをもらっても、気持ちは「二位」のままだと思います。しばらく、カール・ルイスは大会で負けることが続きました。

ところが、カール・ルイスはそれからたくさんのすばらしい人と出会い、変わっていきます。その中に、自分のために特別にシューズを作ってくれていた日本の人たちがいました。この日本のシューズメーカーは、最後には「ルイス・スペシャル」という名前を付けた、135cのシューズを完成させて、カール・ルイスと力を合わせ、30歳になってから当時の世界新記録を作ったのでした。

カール・ルイスのように、特別な力をもらった人たちは、きっと若いときは自分だけを信じて生きているのだと思います。自分が、世界でいちばん才能を持っている。走ったり、泳いだり、高く飛んだり、遠くへ投げたり、どんなことでも、結局は自分しか信じることができない。頼りになるのは自分だけだと思っているのです。

けれども、ある時から、自分の記録は、周りの人の支えがあるからなんだということを真剣に考えるようになります。大きな大会で完全に負けてしまったり、同じ人に何回も負けたりしたとき、自分一人ではこれ以上できないことがはっきり分かるときがやってきます。そんなとき(本当は最初から支えてくれていたんだけれども)周りの人の支えが力を与えてくれるのです。

カール・ルイスの力は、ほとんど限界に来ていました。彼の身体の能力を上げることは、もうほとんど不可能でした。カール・ルイスが記録を作るためには、着ているもの、特にシューズを軽くする必要があったわけです。

途中の話は省略しますが、誰も思いつかないような材料を使い、工夫をして、鳥の羽のように軽いシューズができあがり、それを実際に履いて、カール・ルイスは世界新記録を作りました。彼の記録は、もちろんシューズのおかげですが、それを作ってくれた人たちの力だったのです。カール・ルイスは、自分の力と、自分を支えてくれる人たちの力を信じることができたので、30歳になってから世界新記録を作ることができたんだと思います。

長いたとえ話でしたが、今日の福音で私が話したいことがほとんど入っていました。イエス様は弟子たちにこんなふうに言っています。「わたしにつながっていなさい。わたしもあなたがたにつながっている」。それから、「人がわたしにつながっており、わたしもその人につながっていれば、その人は豊かに実を結ぶ」。私たちは、若いときは自分の力で結果を出していると思ったり、自分しか信じることはできないと思ったりしがちですが、イエス様はやさしく言っています。「あなたが力を本当に出すためには、わたしにつながっていることが大切だよ」「私がそばにいて、助けているから、わたしの力を信じて、働きなさい」と言っているのです。

正直に言いますが、本当は中田神父も、イエス様の優しい言葉がまだちゃんと分かっていないんです。太田尾教会に来て3年目に入りますが、これまで残したことは、自分の力でしたんだと思ってしまいます。「助けてもらう」ことを本当に喜ぶ広い心が、まだちゃんと育っていないと思います。助けてもらうよりは、自分一人で成し遂げた小さな成功のほうを喜んでしまうのです。

イエス様は確信を持って私たちに呼びかけています。「わたしにつながっていなさい」。誰かに助けてもらうこと、誰かが支えてくれていることを素直に喜ぶ人になれるように願いましょう。そして特に、イエス様につながっている人が、本当はいちばん力を出すことができるということを、心の底から理解できるように、神様の恵みを願うことにしましょう。